公認会計士の仕事
私は30年余り公認会計士の仕事に従事しています。公認会計士というのは,会社等のお金の動きをしっかり調べ,正しく決算書に記録されているかを確認したりする,いわば“お金の番人”のような仕事(この仕事を「監査」といいます)です。また,国や自治体に支払う税金の処理や,経営がうまくいくようなアドバイス(コンサルティングといいます)も行っています。
公認会計士の業務の範囲は,近年広がってきています。企業のみならず自治体や公益法人,学校法人や医療法人などの非営利法人(お金を儲けることを目的としない法人)にも公認会計士の関与が求められています。さらには,公認会計士が財務や会計の専門家として,企業や非営利団体の役員や職員に就く事例も増えています。
私は,公認会計士として,監査や税金の処理,経営支援を行うと同時に,全国珠算教育連盟の外部理事として,会計や財務の面を中心に連盟の維持発展のために専門家としてアドバイスさせていただいています。
グローバルな会計の世界
ビジネスの現場では,日々たくさんの数字と向き合っています。私の携わる会計の世界は,国際的(グローバル)であり,万国共通の簿記という仕組みを利用しています。
先日,インドの公認会計士と会議をすることがありました。日本の会社がインドで仕事をしていて(子会社を設立),会計処理や税金のことなどで会議をすることとなりました。英語での会議ということになるのですが,いわゆるインド訛が強く,また,私も英語がネイティブの発音というわけにはいかず,当初はお互いの疑問や問題点,課題の共有などの意思疎通がうまくいっているとはいえない状況でした。しばらくして,ホワイトボードに仕訳(簿記で表現した会計処理を仕訳(しわけ)といいます)を使って議論を始めたところ,会計という世界共通の仕組みを使っているので,スムーズに会議がはかどったことがあります。
さらに,世界共通の財務報告の基準(「決算書」という一年間の活動の内容と結果を示す書類を作成するためのルール)として,国際財務報告基準(IFRS)があり,140ヶ国において,大規模会社(上場会社など)はこれに従う,あるいは準ずる処理をしています。例えば,世界を代表する自動車メーカーであるトヨタ自動車(日本),フォルクスワーゲン(ドイツ),GM(アメリカ),フィアット(イタリア)を比較するとき,同じか同等の会計のルールで決算書が作られていないと,どの会社の収益性が高い(儲かっている)のか,財務安定性(手持ちのお金に余裕があるか)がどうか等,比べることができないからです。
言語の違いこそあれ,世界中のビジネスの現場で同じ仕組みが使われており,会計の世界はまさに「グローバル」といえます。
会計の知識を身につけ経験を積むことで,ビジネスで活躍する機会は広がっています。ぜひ興味をもっていただきたいものです。
そろばんの力が役に立つ
そろばん学習により,数字が身近に感じるものになります。これは,会計を理解し,ひいては会社等のビジネスを理解する上で,とても重要な能力を身につけることにつながります。
大規模かつグローバルに事業を行う企業では,例えば日本で売上高が一兆円を超える上場企業は183社(2025年3月期)もあり,1位のトヨタ自動車の売上高は45兆円(!)もあります。ちなみに日本の国家予算は約110兆円ですので,そろばん学習者の皆さんであれば,どれほど大きな数字かイメージがわきますよね。なお,私が仕事で使う高性能電卓は12桁ですが,トヨタの売上高は14桁必要です。そろばんでは余裕で対応できますね。
世界ではアメリカのWalmart(ウオルマート,スーパーなどの小売業)6,481億ドル(約97兆円),Amazon(アマゾン ネット通販,ウエブサービス)5,747億ドル(約86兆円),中国の国家電網公司(電力)5,459億ドル(約81兆円)が売上高上位トップ3を争っています。ちなみに日本一のトヨタ自動車は世界では14位にとどまっています。
これらのいわば天文学的な規模の企業であっても,その活動はWalmartであれば,スーパーマーケットでの顧客(お客さん)ごとのレジでの食品等の売上の積み重ねであり,Amazonであれば,ネット通販での一取引(ポチっとクリックしてクレジットカードなどで支払う)の積み重ねです。これらの企業では膨大な取引について,会計を使って処理し,最終的には国際的な会計基準に従って決算書が作成されます(なお,決算書については,それぞれの会社のホームページで見ることができます。日本では「有価証券報告書」,英語ではannual repotです。お気に入りの会社のホームページを検索してみてください)。いろいろな数字が決算書には並んでいますが,そろばん学習で数字が得意であれば,数字の裏にある会社の活動に思いを馳せることができるのではないでしょうか。
そろばん学習者の皆様へのYELL
そろばんをくり返し使うことや,数字を身近に感じることで,数字の裏にあるさまざまな活動の実態を頭の中で思い浮かべる基礎力がはぐくまれ,社会や経済の仕組みを理解するうえでも大きな助けになります。
ぜひ皆さんには,そろばんを通じて数のイメージ力を高め,また数字が世界につながっていることを想像していただきたいと思います。
そろばんの練習は,静かに机に向かい,何度も反復する地道な作業です。これを積み重ねることで,目の前のことに集中する力や,コツコツ努力を続ける力が自然と身につきます。これは,大人になってどんな仕事をするうえでも大切な力です。
そして,そろばんを通じて,数字が得意になってください。また,ビジネスの世界共通の言語である会計についても興味をもってください。さらには,会計の専門家である公認会計士について,将来仕事を選ぶ際の選択肢として考えていただくことがあれば幸いです。
そろばん学習は,将来,世界のビジネスシーンで活躍するための大きな一歩だと考えています。
そろばん学習者の皆さんのご活躍を心より祈念しています。
