ホームyell珠算から始まった人生

YELL

VOL.35

珠算から始まった人生

井上 颯 さん

広島県広島市生まれ
私立灘高等学校・京都大学医学部医学科卒
大学卒業後,奈良県の天理よろづ相談所病院に入職
現在研修医2年目

 僕は小学3年生からそろばんを始め,中高時代まで珠算の大会に出させてもらっていました。全国大会も出場経験はありますが受賞などはすることなく,中国五県大会でなんとか入賞する程度で珠算の選手としては目立った活躍のないごく一般的な選手の1人でした。

 この度はそろばんOBとしての応援メッセージを書かせていただくことになり,そろばんに助けられたうちの1人としてささやかながら応援の言葉を送りたいと思います。

 僕は広島県広島市で生まれ,これまでに人生のほとんどを広島という地で過ごしました。元々サッカーとスイミングを習っており,サッカーでの左手の骨折を契機に新たな習い事として母よりそろばんか書道を提案されました。自身は真面目な性格ではなく,むしろ外で動き回るのが好きな小学生だったので,文化的な習い事は不向きであると抵抗があったのを今でも覚えています。初めに書道の見学に行き自分には不向きであると感じ,次に地元にある福原珠算教室に見学に行き,初日から教材を猛スピードで進めさせてもらい,徐々にできるようになる感覚が楽しく,そのままそろばんを継続しました。福原静子先生に丁寧かつ迅速に教えていただいたことで,半年という短い期間で地区大会学年優勝という実績を勝ち取り,そこからそろばんの大会の楽しさにハマって毎日練習をする日々が始まりました。

 母親が脳の病気を患っており,脳神経外科の先生に当時からお世話になっていたことや自身が小児喘息などでよく入院していたという経験もあって医者という職業に日頃から関わる機会があり、憧れを持ちそろばんを始めた同時期に医者を志しました。勉強という地道な作業は僕にとっては苦痛でしたが,そろばんで培った暗算能力により算数・理科で大きなアドバンテージがあったことで成績は何とかある程度保てていました。中学受験では医学部への進学率が高い兵庫県の灘中学を志し,過酷な受験勉強と並行して息抜きとしてそろばんも続けていたため,ほとんどそろばんを休むことなく両立していました。

 幸い受験勉強は成功し志望校に合格,その後寮で一人暮らしをすることも考えましたが,家族との相談で新幹線通学することになりました。自宅からの通学となったことで福原珠算教室での練習を継続することができ,実質部活のような形で広島に帰ってそろばん教室へ練習に行っていました。その後間もなくして全珠連の暗算十段を獲得し,その頃が自分の珠算人生のピークだったとも言えます。高校に入って大学の受験勉強が始まった頃から教室に通う頻度が少なくなり受験に集中しました。大学受験でも幸い第一志望の京都大学医学部に合格し,大学6年間を経て現在は研修医として奈良の市中病院で働いております。

 受験勉強とそろばんという一見するとあまり関わりのない分野は僕にとっては3つの同様の能力を必要とすると考えております。

 第一に短期間での集中力が求められます。そろばんの大会や検定では3分や7分というかなり短い時間で集中力を手元の計算に全て集め,その作業を繰り返します。大会本番や検定当日ももちろんですが,毎日の練習の中でもその集中力は求められるため,日頃から短時間の集中力が鍛えられ,その能力は必ず受験勉強にも活きてきます。数学の問題・英文の読解など受験の全ての分野において集中力がなければ成果は実りません。日々のそろばん練習の中で集中力がつき勉強の際にも応用できていたのだと感じております。

 第二に本番でのプレッシャーへの強さが求められます。そろばんの大会は特に読上算やフラッシュ暗算で上位に残った際や制限時間の終わり際にはかなり緊張します。その緊張感に慣れていなければ受験の際も本来の実力が発揮できないことがあると思います。プレッシャーを逆に力にできるような選手は受験本番でも多少の緊張は感じると思いますが,僕のように模試での成績よりよい成績が取れる可能性は十分にあると思います。
第三に他の強力な選手との競争心が求められます。自分とほとんど同じ点数または少し良い点数を取る選手と共に大会で切磋琢磨して自分の実力を上げていくことは,誰かと争い勝つことに喜びを感じる自分の競争心をより強いものにしてくれました。受験においてもその競争心があることで模試などを経験する度に,より自分を高めることができたと考えています。

 自分が医者になるまでの人生はそろばんという基盤があったことで大きく助けられたと考えています。そろばんを始めた頃は伸びやすかった点数も,しばらく大会を経験する中で伸び止まりに悩んだこともありました。そのとき諦めることなく継続し,続けられる限界までそろばんを練習し続けたことで得られたものは大きかったと思っています。皆さんもそろばんの練習の中で挫折や苦悩とぶつかることもあると思いますが,自分に無理のない範囲で踏ん張り継続してみてください。継続は大きな力になります。自分ががんばってきたものはどんなものであれ必ず今後の人生によい影響を与えると思います。

 小さい頃に母親のように優しく,ときに厳しく指導してくださった福原静子先生は病気でご逝去され,息子である猛先生が現在の福原珠算教室を支えていると聞いています。静子先生に与えられた大きな能力を今後に活かし,これから自分は医師として多くの命を救うため精進していきたいと考えております。

 最後になりましたが両親・家族・福原先生・その他これまでの珠算人生を支えてくださった全ての方に深い感謝の意を示したいと思います。

   
そろばん
教室検索