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VOL.31

珠算のおかげと思えるものは とても大きい

加藤 修 さん

※加藤氏は左から2番目
(2019年8月のパナソニック珠算部OB/OG/現役の懇親会の写真より)

1959年 静岡県沼津市生まれ
1968年 珠算学習を開始
1982年 東京大学電気工学科卒業, 松下通信工業株式会社入社
    入社以来,主に無線通信・携帯電話の研究開発に従事
    モバイル技術開発センター所長,通信システム開発センター所長
1983年~2014年
    パナソニック珠算部に所属
2003年 東京工業大学から無線通信に関する研究で博士(工学)の学位を取得
2009年~2018年
    九州工業大学客員教授(2008年より福岡市に在住)
2019年 37年間勤めたパナソニック株式会社を定年退職

私の珠算との関わり

 私は小4の4月に静岡市の小学校の近くにあった梅原珠算塾に入塾しました。梅原源一先生は国民珠算競技大会で日本一を4年連続で獲得された方で,私も入塾後にぐんぐん力を付けることができました。しかし父の転勤で小5の夏に静岡市から横浜市に転居することになり,東海地区珠算競技大会の小5の部での優勝を最後に梅原先生とは涙のお別れとなりました。

 横浜に転居後も,渡辺晋三先生,広瀬利秀先生などのご指導(年に2~3回の珠算合宿もありました)のおかげで順調に力を伸ばすことができ,高1で初めて念願の全日本珠算選手権大会に神奈川県代表選手として出場できました。また,1983年(社会人2年目の24歳)の全日本珠算選手権大会では,個人で20位,団体が5位(神奈川県),都道府県対抗競技は優勝(神奈川県)という,私の珠算競技人生の集大成ともいえる思い出に残る成績を出すことができました。この時期の神奈川県選手たちは,今でも忘年会などで横浜にてお会いする友人たちです。

 その後もパナソニックの珠算部に所属したこともあり,55歳まで珠算選手として競技大会に参加していました。珠算の力を伸ばすことが生活の大きな部分を占めていた9歳~20歳代前半での珠算との向き合い方と,技術研究者・産業人・社会人としての成長が人生の中核となっていったその後の珠算との向き合い方はかなり違ったものでしたが,多くの珠算選手仲間(10歳以上年上の方から1世代以上若い方まで)や多くの尊敬できる先生方と知り合うこともでき,55歳まで競技を続けたことは今振り返っても非常に幸せなことだったと思います。
 

珠算と受験勉強との両立の葛藤

 珠算が大好きで珠算の県順位や全国順位の向上を目標に青春を謳歌できた私でしたが,実は中学3年の秋に勉強(高校受験)との両立の葛藤から珠算を止める決断をしました。塾の広瀬先生に相談することもなく止めてしまったのです。高校入学後にはサッカー部に所属したのですが,心が燃える感じがなく味気ない日々でした。そのような日々が過ぎゆく中,7月初旬頃に広瀬先生が「もう一度そろばんをやらないか」と私の自宅を訪ねて来てくださいました。そして一度は止めた珠算を再開しました。広瀬先生のあの日の訪問がなかったら私のその後の長く楽しかった珠算競技人生はなかっただろうし,和気あいあいと語り合える珠算友達もいなかったのだなぁとしみじみと思います。

 珠算再開の決意と同時に,私は次のような決心もしました。「珠算と勉強の両立で再び苦しむことがないように,高校での主要科目であり積み上げ科目でもある数学と英語は,高校3年間分を1年生のうちに完了させる」という決心です。このことを実行するのはむしろとても楽しく,思ったよりは順調にいくものでした。おそらく圧倒的な予習というものが,学校の膨大な授業時間を有効な復習時間にしてくれたためかと思います。心に自信とゆとりを生じさせてくれたのです。こんなことがあり,高校では3年生の全日本選手権大会まで競技大会に燃えていましたし,その後も受験勉強の合間に珠算の練習を継続できました。

現在珠算を習っている方々へのメッセージ

 まずは目標をしっかり立てて,その達成を目指すことです。目標は,検定試験の上位級や上位段位の合格でもいいでしょうし,塾で何位とか県大会で何位というような競争目標でもいいでしょう。精一杯努力したのに結果が伴わないということは誰もが経験することです。私も1,000点満点の競技会に向けての練習で,1年前の得点をコンスタントに50点以上更新できていたのに,大会本番では1年前と同じような得点に終わったということが数回ありました。努力が報われなかったようで虚無感を感じたものです。しかし,それでもその1年間の練習は無駄ではなく,実力は着々と伸びていたのだとその後にわかるものです。珠算に打ち込んだ若き日々は,成功と失敗の両方を何度となく経験させてくれた貴重な時間であったと思います。

 また珠算を学習する皆さんの中には,若き日の私と同じように,珠算と勉強の両立で悩むこともあることでしょう。私は,学校カリキュラムの先取り学習でその悩みを克服できましたが,自分の好きな道をアスリートのようにどこまで追求するかは,まさに個人個人の決断の問題でしょう。どうするかは親でも先生でもなく,最後は自分で決めなければいけません。そして珠算(あるいは他の分野でも)に打ち込んだ経験は,自分が選んだその後の人生に良き影響を与えてくれるものだと私は信じています。

珠算式暗算は凄い潜在能力を保有していると心底思う

 珠算競技レベルが毎年のようにぐんぐんと伸びています。これは珠算に携わる先生方や生徒さんたちの高い目標設定での日々の努力のたまものでしょう。昨今での珠算日本一を競う大会でのタイムを知るにつけ,人間とはこんなにも凄い能力を秘めているのだなぁと感動する次第です。

 今後,競技レベルだけではなくごく一般的レベルとしての珠算界全体が盛り上がっていくためには,珠算式暗算の持つ利便性の世界へのPRが重要だと私は感じます。3桁の数を5個足す,26×83=2,158,6,612÷76=87 程度の計算を,ほとんどの日本の小学4年生がほぼ瞬時に答えを出せる状況を“珠算”ならば実現できることでしょう。それを目の当たりにしたグローバル社会や子供を育てる親世代の方々はどう思うことでしょう?珠算式暗算の能力を早い時期に我が子にも標準装備(その機能や性能を保有していることが当たり前という状態)させたいと思うのではないでしょうか。初等算数教育における筆算での計算指導を置き換えられるくらいの潜在能力を珠算式暗算は保有していると思います。

 計算力と数学力は確かに別物でしょうが,自由自在な計算力が土台にあることは小学校高学年以降の算数や中学以降の数学の修得でも明らかに優位性があるはずです。“計算結果”という部品を求めるのに労力(時間)が珠算式暗算を知らない人の5分の1や10分の1で済むことは,数学的思考を進めていくうえで,“思考”に集中できるからです。

 また会社生活や社会生活においても,計算がほぼ瞬時に完了することの大きな恩恵は,単に時間が節約できるということにとどまらず,「何か途中で計算を要するようなことをあれこれ考えている時に,すぐにその計算結果が頭の中に存在するおかげで,本来どんどんと先に進めたい思考が途切れないで済む」ということだと今までの人生の中で常々感じてきました。

 皆さんにも是非,珠算式暗算をマスターしたことを最大限に活かして,単に計算が速くできるという次元を超えて,いろいろな分野で実力を磨いてそれぞれの道で活躍していっていただきたいと願います。

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