みちしるべ
教育における脱デジタル化の動向
From 上垣 渉 (三重大学名誉教授・全珠連理事・全珠連学術顧問)
21世紀はデジタル化の時代といわれ、社会の多方面にわたる分野においてデジタルテクノロジーが駆使されています。
特に、社会経済システムはデジタル抜きには成立しえない状況を呈しています。
そして、そのおかげで、一面では、人間は便利で快適な暮らしを手に入れたようにみえます。
しかし、デジタル化の強い光がつくる陰には、濃い影が生まれてしまうことを看過することはできません。
その濃い影は子どもの教育の世界に現れてきています。
国際的な教育先進国といわれていた北欧諸国、特にスウェーデン、フィンランドは学力調査において常に上位グループに位置し、日本の教育にも大きな影響を与えたことで知られています。
しかし、最近のニュースによれば、徐々に学力低下が進行しているようです。
その原因としてICTを活用した学習の推進が指摘されています。
スウェーデンのある地域では、2010年にタブレットを1人1台付与する計画を進めましたし、フィンランドでは、11歳を迎えた児童全員にノートPCを無償で配布してきました。
その結果が基礎的な学力の低下につながっていると専門家は警鐘を鳴らしているとのことです。
実際にも、昨年の2024年12月に、国際教育到達度評価学会(IEA)は、2023年3月に実施した「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS)の結果(小学4年と中学2年の数学、理科の平均得点)を公表しましたが、上位グループに北欧諸国は皆無です。
今、スウェーデン、フィンランドの教育は脱デジタル化をはかり、紙と鉛筆に戻ってきつつあります。
小学校では、タブレットではなく、印刷された本を静かに読むこと、手書きする時間を多くすることなどに力が注がれているようです。
日本の教育関係者も「教育における脱デジタル化」の重要性に早く気がついて軌道修正を図ってほしいものだと思います。
「紙と鉛筆への回帰」を強く望みます。
特に「2030年の学校教育の姿」を描くとされる次期指導要領に向けた改訂が進められていますが、ぜひ脱デジタル化の方向を打ち出してほしいものです。